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鳥取地方裁判所 昭和51年(わ)153号 判決 1977年11月28日

本店所在地

鳥取市永楽温泉町一五六番地

有限会社栄楽会館

右代表者代表取締役

徳山明吉こと

姜明吉

本籍

韓国慶尚北道軍威郡義興面芭田洞二八一番地

住居

鳥取市扇町八二番地

遊技場経営

徳山弘遠こと

姜鴻遠

大正二年二月一二日生

右の者らに対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は検察官桃井弘視出席のうえ審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社栄楽会館を罰金三五〇万円に、被告人姜鴻遠を懲役四月にそれぞれ処する。

被告人姜鴻遠に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告会社の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は、鳥取市永楽温泉町一五六番地に本店を設け、パチンコ遊技場の経営を目的とする資本金一、〇〇〇万円の有限会社であり、被告人徳山弘遠こと姜鴻遠は、被告会社の経営者として会社の業務全般を統轄掌理するものであるが、被告会社の業務に関し、法人税を免れる目的をもって売上の一部を除外して別口預金を設定する等の不正の方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和四八年四月一日から同四九年三月三一日までの事業年度における被告会社の所得金額が別紙修正損益計算書(一)記載のとおり、一六、三九八、八九六円であったにもかかわらず、同年五月三一日鳥取市東町二丁目三〇八番地所在の鳥取税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が一、八六八、一九三円で、納付すべき法人税額は無く、源泉所得税の還付金が三九、六〇九円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、同会社の右事業年度の正規の別紙脱税額計算書記載(一)法人税額五、七二四、一〇〇円と右申告税額との差額五、七六三、七〇〇円を免れ、

第二  昭和四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの事業年度における被告会社の所得金額が別紙修正損益計算書(二)記載のとおり二九、三二五、二六五円あったにもかかわらず、同年五月三〇日右税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二五三、八一八円でこれに対する法人税額が一五、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、同会社の右事業年度の正規の別紙脱税額計算書記載(二)法人税額一〇、九五四、三〇〇円と右申告税額との差額一〇、九三九、二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人姜鴻遠の

(1)  当公判廷における供述

(2)  検察官に対する供述調書二通

(3)  大蔵事務官に対する質問てん末書一二通

一  被告人姜明吉の検察官に対する供述調書

一  姜辰吉の検察官に対する供述調書(判示冒頭事実)

一  金英子の検察官に対する供述調書および大蔵事務官に対する質問てん末書三通

一  山下百合子の検察官に対する供述調書および大蔵事務官に対する質問てん末書八通

一  木村寛の検察官に対する供述調書および大蔵事務官に対する質問てん末書二通

一  大蔵事務官木下信二(三通)、同角田訓次(二通)作成の各調査事績報告書

一  商業登記簿謄本

一  押収してある法人税決議書綴一綴(昭和五二年押第一二号の一)、総勘定元帳一綴(同号の二、判示第一事実)、総勘定元帳一綴(同号の三、判示第二事実)、普通預金出納ノート一冊(同号の四)、当座勘定帳一冊(同号の五)、金銭出納帳一冊(同号の六)、金銭出納帳一冊(同号の七)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、(1)被告会社の昭和四八年四月から翌四九年三月末までの事業年度において、所得金額の算出にあたり損金としてパチンコ機械等の減価償却すべき金額が金一三、七一五、七七〇円であるのに、実際減価償却として認められた金額は金六、七一二、二六二円であって、残余を損金とせず所得金額が算出された。同様に、(2)被告会社の昭和四九年四月から翌五〇年三月末までの事業年度において、減価償却すべき金額が金九、〇二三、六五七円であるのに、金一、三五七、〇五二円の償却しか認めず、所得金額が算出された。少くとも刑事事件としては、当該年度ごと法定限度額までの償却をしたうえで、客観的な所得金額を把えて犯則金額を確定すべきで、これをしないで犯則金額を決めることは正義に反し不当であり、かつ未償却分については脱税の犯意を欠くものと主張する。

そこで検討するに、法人税法三一条、二条二六号によると、減価償却費について各事業年度の損金として算入しうる金額は、その法人が確定した決算において償却費として損金経理をした金額のうち償却限度額に達するまでの金額で、その範囲内であれば、法人が任意に決定しうる建前となっている。これは徴税側において法人の減価償却について詳細な検討を行わしめることが技術的に困難であり、概括的に把えることとし、減価償却の有無、方法、金額等について法定の枠内を超えない限り法人自体に委せておくのが最善とする配慮からである。なるほど本件において証人木下信二の当公判廷における供述によると、広島国税局査察官として被告会社の脱税について調査をした右木下は、同社のパチンコ機械につき一部減価償却していないものがあることを認めていたが、すでに会社経理上処理されているものについて税務上動かしえないとして同社が修正申告した際にも、そのことを被告人に説明していることが認められる。そして押収してある税務関係綴一綴(昭和五二年押第一二号の八)によると、被告会社の本件各事業年度の財務諸表が作成され、これには別紙修正損益計算書(一)、(二)の減価償却欄記載のとおり決算が確定したことを前提とする昭和四九年五月二五日付、同五〇年五月二五日付のいずれも各取締役、監査役の認証が付されていることが認められる。そうだとすると、もはや税務上被告会社から申告のあった減価償却額を法定限度内に見られる限り動かしえないものといわねばならず、いわば法人の自治的部分であるから、損金にできるものをしなかった落度は法人自らが負うべきである。租税刑法上といえども、税務計算上適法とみられる限り、これに従うのが当然であって、右落度を考慮してまで別途の税額計算を要求されるものではない。そうすると、本件において減価償却を申告額により所得金額の算出上、一部未償却のあることを考慮しないのであるから、被告人において、所得金額を少くする意図のある以上ほ脱についての犯意があるものといわねばならず、弁護人の主張はいずれも採用することができない。

(法令の適用)

被告会社につき、法人税法一五九条、一六四条一項、刑法四五条前段、四八条二項、刑訴法一八一条一項本文。

被告人につき、法人税法一五九条(各懲役刑選択)、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(判示第二の罪の刑に加重)、同法二五条一項。

(量刑事由)

本件は、被告人の法人成企業が売上額を秘匿し、その他仕入先、そのリベートを正規の帳簿に記載しないという方法で行われた脱税犯であるが、被告人が会社を設立してから日が浅く、新店舗における営業で、その基礎も固っていない時期であったこと、脱税について調査をうけてから、取調官にすべてを話し悔悟反省しており、身から出た錆とはいえ減価償却について落度がなければ所得金額が判示の算定より少くなり、脱税額も少くなったことが推測されること、現在被告会社の業績が、借金と同業者の増加等で以前よりはかばかしくないこと、そのほか被告人には昭和三三年に道交法違反等で罰金刑が二回あるのみで他に前科がなく、しかも戦前に来日して以来苛酷な条件で辛酸をなめ尽しながら真面目に働き今日の地位を築いたことなどの事情を考慮して、それぞれ主文掲記のとおり量刑し、被告人に対しその執行を猶予することとした。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 藤本清)

修正損益計算書(一)

過少申告脱税犯

自 昭和48年4月1日

至 昭和49年3月31日

修正損益計算書(二)

過少申告脱税犯

自 昭和49年4月1日

至 昭和50年3月31日

脱税額計算書(一)

自 昭和48年4月1日

至 昭和49年3月31日

税額の計算

脱税額計算書(二)

自 昭和49年4月1日

至 昭和50年3月31日

税額の計算

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